ターン・ダウンとは何か?

ホテルならではのプロのノウハウや心構えなどを取り上げてきましたこのコー ナー。次回をもって最終回とさせていただきます。ずっとご愛読いただきました皆 様、ありがとうございました。コメント担当は、ホテルオークラ東京のホテルマンと して経歴27年の蔵田理。さて、今回はこれまでの要素をまとめつつ、サービスについ て考えさせられた「真実の瞬間」についてお話しします。お楽しみに。 ●“サービス”とは何か  「サービスって何?」と聞かれて、漠然とはわかっていても明確に応えられる人は 少ないのではないでしょうか。 「サービス業に携わる場合、自分自身の“サービス哲学”を持っていないといけませ ん。というのも、いろいろな切り口があり受け取る側の意識によってそれは無限大だ からです。サービスする側とされる側の立場の違いを超えて、どれくらい相手を理解 できるかということですね。例えば、ホテルの部屋に髪の毛が落ちていたとします。 お客様は初めてクレームを言った方だとしても、クレームを受ける側は“またか”と 思いがち。でも、それではダメ。その温度差がお客様にもわかってしまうからです。 どれだけ真剣に受けとめられるかが大切なのです。」  あるお客様でご夫婦で宿泊された時のこと。その時は、空調が悪く2度ほどチェン ジルームをされて3つ目のお部屋でやっと落ち着かれました。夕方のターンダウン サービスのこと。同僚と共にお部屋のチェックに伺ったところ、ソファー横のテーブ ルの上にFXのマグネットが落ちていました。そのお客様のものとは思えな いし、かといってご本人たちは外出されているのでお聞きできないし、ひとまずその ままにしておいたそうです。 「するとお客様から“何かの間違いではないか”とクレームのお電話がありました。 そこで、ターンダウンサービスで伺った時にそこにあったとご説セして、一旦は収 まったんです。それが、私が帰宅途中に電話があり、やはり納得できないから今から 来いと言われまして。あと1駅で我が家だったんですがホテルに戻りました(笑 い)。そして、お客様の所に伺ったのですが、私どもはあった、お客様はそんなもの なかったと、いくら話しても平行線です。するとそのご主人が、違う先物取引からの見方 はないものかとおっしゃったんですね。では、第3者が入った形跡はないかと、念の ためカードキーの履歴を調べてみましたがそれはありませんでした。」  行き詰まった状況の中で、改めてお客様が“絶対なかった”とそこまでおっしゃる 訳をお聞きしてみたそうです。すると、最初にお部屋に入られた時、お茶を飲もうと ポットをテーブルの上に移動したが、マグネットはその15cm位下に置いてあったのだ から、あればその時気が付くはずだとおっしゃったそうです。 「それでハッと気づいたんです。ターンダウンの時、お湯を補充するためにポットを 外に出したんです。その時、きっとマグネットが付いてしまい、再びお部屋に運んだ 時テーブルの上に落ちたのではないかと。まさに事実はひとつ、“真実の瞬間”でし た。このことによって、いかに自分のことを正統化しようということだけに神経を 使っていたかを思い知らされました。」  いつも新鮮な感覚でお客様の話を聞く大切さを、再確認したそうです。 ●大切なのは、パーソナルサティスファクション  クレームには、“次のステップアップへのヒント”が隠されていると言いますが、 サービスについて考えさせられるエピソードをもうひとつ。  ある忘れ物について。仮にAさんとしますが、ベルキャプテンにダンボールを預け たそうです。それを取りに来た時、預り証をベルキャプテンに渡し、荷物をもらい車 を呼んでもらいました。Aさんは、車が来るまでその荷物をロビーの隅に置いておい たそうです。そのため、すっかり荷物のことを忘れて車に乗り込んでしまいました。 「その後、お客様はベルキャプテンが荷物を渡し忘れたとクレームのお電話をしてきました。ベルキャプテンが、預り証の半券はありますから、渡し忘れではないと言い ますと、“自分の手元に荷物がないのだから渡し忘れだ。それがサービスか!”と怒られまして。